餅
餅は、古来より祝事や正月に欠かせないものとして、日本人の生活に密接に関わってきた食品である。
正月が近づくと、あちこちの家庭で餅つきが行われたものである。
しかし、近年は家庭でつかれることはほとんどなくなり餅工業に生産がゆだねられるようになってきた。
餅の生産が、一つの産業としての形態を整えたのは、昭和40年頃からのことであった。
餅の工業生産の可否は、かびの防止対策と密接な関係があり、昭和40年以前は、保存料に依存した方法で安定性も低く大量生
産ができなかった。
しかし、昭和39年に通気性のない樹脂袋につきたての餅を密閉した後、湯殺菌を行う方法が開発され、それにより餅の保存性が
大幅に向上したため、全国流通が可能となり、それに伴い機械力を導入した大量生産が行われ、産業としての姿が整っていった。
以後昭和50年代になると、消費者の本物志向や生もの志向が高まり、これまでの加熱殺菌による餅から無殺菌でも安定な無菌
化対策による餅へと転換を余儀なくされ、現在主力商品となっている無殺菌の生切り餅が誕生し、現在に至っている。
原料もち玄米の選択
原料もち玄米は、新古により菌相が異なり餅の保存性に大きく関与する。
すなわち新米のときはシュードモナス系の細菌が主体を占めているのに対し、古米になるとパチラス属やかびが検出されるように
なり、餅変質の原因になりやすい。そのため、極力鮮度の高い米を選定使用することが必要である。
鮮度は発芽率で判断でき、これが80%以上の米ではパチラス属はほとんど検出されないため、発芽率の高い米を選定使用する
ことが流通安定性の高い餅を製造する上で大切である。
米の発芽率と耐熱性菌
原料米 発芽率 総菌数
耐熱菌数 %
古米中田もち 43% 7.6x10 3 50 0.7
古米秋田おとめもち 83.5% 2.4x10 3 0 0
古米中之島コガネモチ 7% 690 160 23.2
新米長沢コガネモチ 89% 3.0x10 5 0 0
古米秋田コガネモチ 2.5% 1.2x10 3 730 60.3
餅の調理と特徴
餅は独特の物理性を持 った食品であり、好みは人によって、・・・・・・幅広く、嗜好性を特定することはできない。しかし、調理面で
はどのような餅であっても煮くずれず焼きダレしない共通した特性が要求される。煮る場合には、水から煮ていき沸騰したら火を止
め数分放置するか、80℃のお湯で煮るとよく、火力が強すぎると餅の形が煮くずれ糊液となりやすい。
また、焼く場合には、昔のような火鉢などの適した道具がないため、800W以上のオーブントースターを用い、時々加熱中にふたを
開け水蒸気を逃がしながら焼く。
ガスレンジ使うときは火力を弱くし、赤熱白アミが入っている焼きアミを用いるのがよい。
餅は調理時間が、かなり短くて可食状態になってくれるため重宝で、しかも雑煮のようなスープイン型、力ラーメンのようなトッピング
型、ベーコン巻きのようなロール型と幅広い調理上の特性を有し、和食にも洋食にも合う特徴を有している。
そのため、栄養に偏りのない食べ方ができるなどのメリットを有する食品といえる。
もち米品種の加工適正
全国のもち米の作付け面積は、戦後最大時で23万ヘクタールあったが、現在では約9万ヘクタールと減少している。
産地品種銘柄の品種別では、ヒヨクモチ、ヒメノモチ、こがねもち、はくちょうもちの作付け面積が多い、もち品種については系譜
上、平和もち・黒もち品種群、信濃もち3号・こがねもち・ヒメノモチ系品種群、小川もち・松本もち系品種群の三つの大きな流れがあ
ることがわかっている。
もち米として評価が高いこがねもちや羽二重もちは、長桿、低収で栽培しにくいが、最近は、地域に適した短桿・多収性の品種が、
各地で育成され実績を上げてきている。
もち米は切り餅、あられなどの米菓、大福ほかの和菓子などに加工利用される。一般に切り餅やあられ、おかきなどへの加工適正
の中では、餅にしたときの硬化性が重視される。また、あられでは膨化性の点から低タンパク質品種、切り餅では餅の色、肌、食味
などの点から優れた品種が求められる。
もち米の栽培と加工適正
もちの硬化性については、一般的に登熟期の気温が高くなるのに伴い、冷蔵時の餅の硬化は早くなる。産地のもち米の評価はほ
ぼ登熟等温線と関連づけて理解されるが、品種や昼夜の温度較差も影響するといわれる。
硬化性は成分的には、精米粉のアミログラム特性値の糊化開始温度と関係が深く、糊化開始温度が高いほど硬化速度が早い、
糊化開始温度の差は、デンプンすなわちアミロペクチンの分子構造に起因していると考えられる。・・・・・・・・
あられの品質評価については、原料の膨化性は食感や商品の品位に関係することから特に重視される。・・・・・
なお、もち米の品質については・・・うるち米の混入に注意する必要がある。特に冷害年などには自然交配の率が高くなる、このた
め、一般にもち品種は熟期がうるち品種と異なる場合が多く、あるいは生産の団地化で対応している。
米の科学 (朝倉書店)より |